第12回 長岡市小国で和紙作りを体験

長岡市小国(おぐに)では、古くから農家の冬の副業として和紙作りが行われてきました。一度は後継者が途絶え、消えつつあった雪国特有の小国紙(おぐにがみ)。昭和59年(1984)に設立された有限会社小国和紙生産組合が伝統技法を受け継いでいます。同組合を訪ね、和紙作りを体験しました。

有限会社小国和紙生産組合 代表取締役今井 宏明さん・千尋さんご夫妻。中央は和紙で作ったウェディングドレス。

江戸時代に年貢として納められた記録が残るという小国紙。
小国和紙生産組合はかつて生産が盛んであった小国町山野田集落のお年寄りから、直接、道具や作り方を教わったそうです。

原料の楮は自家栽培しています。

「こちらが和紙の原料、楮(こうぞ)の枝です。楮畑で組合員が育てています。使用するのは皮。蒸して熱いうちに皮をむきます」と千尋さん。

楮の皮から表皮をはぐ。

皮をむいたら表皮をはぎます。
「専用の道具を使いますが、一枚一枚剥(は)ぐので手間がかかる大変な作業です。昔は包丁を使っていました」。

表皮をはいだ皮を雪に晒して白くする。

外に出て、小国の風物詩「雪晒し(ゆきさらし)」を見せていただきました。
「冬のよく晴れた日に雪の上に広げると、紫外線が楮の色素を破壊して白くします。確か昨日、この辺りにも並べたんですが…。雪が降って埋まっちゃって。あ、あったあった」と千尋さんが雪晒しをした皮を雪の中から引っ張り出しました。

雪に晒した後の皮が白くなっている。

並べたばかりの皮と比べるとかなり白くなっています。雪国の知恵に驚かされます。

楮の皮を釜で煮ます。

雪晒しをした皮を手でちぎれるくらい柔らかく煮ます。
「木灰(もくばい)を入れた上水(うわみず)など、アルカリ水溶液で4時間ほど煮てドロドロにします。工房の火力は皮を剥いだ楮の芯など、すべて薪を使っています。灰を取るためでもあるんですよ」。

煮た後の皮のゴミを取る。

煮た後の皮を水の中で広げながら、丁寧にゴミや筋などを取り除きます。

皮を叩いて繊維をほぐす道具。

皮を叩いてより細かい繊維状にします。今は機械を使いますが昔はこの「槌(つづ)」で叩いたそうです。
「かなり重たいけれど、叩くのは子供たちの仕事でした。お父さんは出稼ぎ、お母さんが紙漉(す)きと、和紙づくりは家族みんなで分業していたのです」。

楮の繊維は長くて丈夫です。

「楮の繊維は7、8ミリから2センチと長く、結束が深いです。丈夫な紙ができます。摩擦(まさつ)には弱いのでプリンターには不向きです。和紙は筆を使う『書』の文化から生まれたものだと思います。筆先が柔らかくあたり、書きやすいでしょう」と千尋さん。

冬は紙漉きの季節。忙しそうです。

紙漉きの工房です。
漉き舟(すきぶね)と呼ばれる大きな水槽には水と皮が繊維状になったものが混ざっています。

繊維が漂っています。

漉き舟の中はドロドロしています。

粘り気のあるトロロアオイの樹液。どろ〜っと糸を引いてのびています。

「和紙作りにはこのトロロアオイの樹液が欠かせません」と千尋さん。
「漉き舟の中にこの粘り気のある樹液を混ぜています。どろっとさせることで繊維が均一に分散します。紙を漉く時も水が抜ける時間をかせいでくれるので、厚みの調整ができるのです。粘り気は自然に消えるので、紙同士がくっつく心配がありません」。

冷たくてきれいな水を使わないと樹液は長持ちしないそうです。和紙作りは雑菌の繁殖しやすい夏場より、冬が適しています。

紙を漉く道具はシンプルです。

いよいよ紙漉きです。「桁(けた)」という木枠と「簀(す)」という極細の竹ひごを平に編んだものを使います。

この道具とサイズは小国特有だそうです。

2つの木枠に竹ひごを編んだ簀を挟み、両手でぎゅっと持ちます。
「とても原始的な道具だと思っています。小国独自のものです」と今井宏明さん。
漉いた紙は「小国判(約29センチ×39センチ)」と呼ばれています。

紙を漉きます。

漉き舟の水を汲(く)み取り、恐る恐る揺すってみました。
「あまりゆっくりやると、紙が厚くなりすぎるので注意してくださいね」と千尋さんが教えてくれました。感覚で厚さを調節するのはなかなか難しいです。

水が抜けたら木枠をはずします。

簀の上にうっすらと和紙が見えます。木枠をはずし、簀をひっくり返し、ゆっくりと取ります。

漉いたばかりの和紙。崩れないようにやさしく扱います。

通常は、青い不織布(ふしょくふ)の上に水気を含んだ和紙を重ねて山にしますが、今回は体験なので、一枚だけ置きました。

日本酒のラベルも漉いています。

こちらには日本酒の一升瓶のラベルを漉いたものが何枚も重ねてあります。水気を絞る前の和紙を重ねた状態を「紙床(しと)」と呼ぶそうです。
「通常、紙床は一日置いてから油圧ジャッキで水分を絞ります。伝統的な小国紙は、絞らずに重ねた状態のまま雪に埋めて低温保存します。『かんぐれ』という方法で、小国紙特有の製造工程です」と千尋さん。
今年は雪が少ないため、かんぐれは行っていないそうです。低温で凍ることも腐食することもないと言います。

紙を一枚ずつ乾燥させます。

工房では紙床からはがした紙を温めた鉄板に貼付けて乾燥させていました。
「小国ではかんぐれしたものを板に貼付け、3月ころ雪上で天日干しするやり方があります。直射日光と雪からの反射でより多くの紫外線があたり、紙を白く美しくしてくれるんです」と千尋さん。
かんぐれして天日干しする工程は県の無形文化財に指定されています。

画仙判(がせんばん・75センチ×145センチ)という一番大きな和紙を漉く。

今井さんが大きな和紙を漉くところを見せていただきました。
バシャっと水音を立てて大きく桁を揺らしたかと思うと、ゆっくりとならし、手際よく何枚も漉いていきます。汗びっしょりです。漉き舟一杯で何回紙を漉くか、経験で厚みを調節する職人技です。

和紙が完成しました。

先ほど体験で漉いた和紙が乾かされて完成しました。薄くてはりがあり、真っ白でやさしい手触りです。この紙に何を描こうか、作ろうかと考えると楽しくなります。

小国和紙の日本酒ラベルを再利用したコサージュづくりも紹介。

組合のアンテナショップ「おぐに和紙の店」では、工房で作られた和紙の販売や工作体験も行っています。

「和紙は風土と密着しています。面白いですよ」と話す今井ご夫妻。小国ならではの伝統技法を守りつつ、新しい挑戦も取り入れて和紙の可能性を広げています。

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有限会社小国和紙生産組合

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