第32回 縄を綯う~津南・しめ縄作り体験~

農と縄文の体験実習館「なじょもん」は、津南地域の農文化、縄文文化、民俗文化を体験できる施設として、平成16年(2004)に開館しました。体験プログラムは、自然と共生した縄文時代の人たちの暮らしを体験できる「火起こし」「土器づくり」「縄文の暮らし体験」をはじめ、「アンギン編み」や「勾玉づくり」など年間で約80種類。土・日を中心に、体験することができます。

(左)日本遺産に認定された津南町出土の火焔型土器。(右)敷地内に復元された竪穴住居が立ち並ぶ縄文ムラ。屋外には、アワ、ヒエ、エゴマ、ヒョウタンなどが植えられ、津南の自然を体験できる。

なじょもんでは、津南町の指定無形文化財の「アンギン編み」の技術と文化の伝承に努め、地元の保存会と一緒に、素材である「カラムシ」を育てています。保存会のメンバーによって採取、撚(よ)られたカラムシは、コースターなどに製品化され、館内のミュージアムショップで販売されています。

アンギンの歴史は、縄文時代まで遡る。明治・大正時代は、「幻の布」と呼ばれていた。

「しめ縄作り」は毎年12月に行われ、津南町でわら細工の伝承に努める「津南わら工芸会」のメンバーが講師を担当します。初代会長の石沢今朝松(けさまつ)さんに指導いただき、挑戦しました。

「わら細工は、アンギンの体系的な調査研究を推進していた津南町の滝沢秀一(ひでかず)先生に勧められて始めました」と語る石沢さん。90歳を超えた今でも、「森の名手・名人」として、津南のわら細工の復元と継承に取り組んでいる。

「わら細工は、定年をきっかけに本格的に始めました。かつては、冬の間の手仕事としてどの家でも盛んでした。私も手伝っていましたから、わら細工は身近な存在でした」(石沢さん)

石沢さんが編んだわら細工。馬沓(うまぐつ、前列左)は、馬が履く草鞋(わらじ)。ひづめが割れたり、すり減ったりして傷つくのを防ぐ目的で、ひづめの裏につけていた。「1時間も履くと擦り切れてしまうので、結構な数が必要でした」(石沢さん)

「素材は、作るものによって異なります。蓑(みの、雨具)であれば『ヒロノ(ミヤマカンスゲ)』を使います。標高500メートルくらいに生えている草で、9月中旬から下旬にかけて収穫しています。ヒロノは水をはじくから、雪や雨が浸み込みません。濡れてもすぐ乾きます」(石沢さん)

大作の前で。「素材は、ヒロノと稲わら。ベテランなら3日もあればできるかな」(石沢さん)

「よく神棚に飾られるしめ縄は、最近になってからのものです(写真左下)。もともと津南のしめ縄は、体験で作っているような輪型をしていました(写真右下)。家の中には神様が複数いて、輪の中をそれぞれの神さまが通って行きます。火の神様、お金の神様など、神様の数は家によって異なります。私の家には神様が9柱いるので、9つの場所にしめ縄を飾っています」(石沢さん)

様々な形のしめ縄。津南では、しめ縄を門松と一緒に門柱に飾る家もある(写真右上)

「しめ縄を飾るというのは、農家にとっても大事なお正月の風習でした。米は農家の所得の大部分を占めていましたから、一年を締めくくり、来年もたくさんとれるように豊作を願って、自宅用にしめ縄を作るようになったのです。汚れのない、きれいな稲わらを使って、大晦日の午前中から作ります。昭和25年(1950)頃までは、実(米)をとった日焼けしたような色のわらで作っていましたが、日本人の生活が豊かになると、早生刈り(わせがり)した青いわらが使われるようになりました。きれいな色のしめ縄を楽しみたいという時代の要求に応えていったんですね」(石沢さん)

青いわらは、稲の穂が出る10日くらい前、7月の10日から15日の間に刈り取る。天気の良い暑い日に刈って乾燥させ、完全に乾いたら束にして新聞紙で包み、屋内の湿気のない場所で保存する。

「道具は、花ばさみを使います。紙垂(しで、しめ縄の下に垂らして飾る白い紙)を付けるときは、千枚通しなどは使わずに自分で作ったものを使っています。その方が、わらにも優しいし、しっくりくるんです。巻き尺も使いません。代わりに指尺。指を使って長さを測っています。あんまり手を使うものだから、指の内側が盛り上がって、だんだん手が軟らかくなりました。」(石沢さん)

紙垂を付けるときに使うお手製の道具は、縄の太さに合わせて使い分ける。指も大切な道具。「わら仕事をするには、爪はきれいに切らないで、ある程度伸ばしておくことも大切です」(石沢さん)

早速、しめ縄作りにチャレンジしてみましょう。「まずは、縄を綯(な)うことをきちんとマスターします。簡単なようだけれど、意外と難しいですよ。初めての人には、なかなかできません。仕事は力じゃなくて、気力。やるという気力と集中力が大切ですから、一つ一つクリアしながら、次の段階に進んでいきましょう。わらは乾燥すると硬くなり、切れやすくなるので、霧吹きで湿らせて軟らかくしてから使います。最初に10本ずつの束を作って、左右の手に持ちます」(石沢さん)

「両手に持ったわらは、編んでいくうちに一緒になることがあるので、最初に本数を数えておくと安心です」(石沢さん)

わらは左右の束を交差させ、紐を使って一つに束ねます。「紐は必ず上から下に向けてかけ、3回巻きます。巻き終えたら、左から右下に紐をくぐらせ、ぎゅーっと引っ張って結びます。この結び方を『かめこぐし』と呼んでいます」(石沢さん)

体験講座では、講師が用意した紐を使う。カラムシの糸も撚(よ)っている石沢さんは、カラムシの糸を持参。「今の技術ではなく、縄文時代の技術を意識しながら作っています」(石沢さん)

縄を綯っていきます。わらを右足の人差し指と親指の間に挟み、踵で押さえながら両手で持つと、わらが安定して作業も捗(はかど)ります。小さいしめ縄を作るからなのか、思ったよりわらの量が少なく感じます。

霧吹きで手を湿らせて、作業をスタート。「昔は唾を手につけて、湿らせていました。そうすると手が滑らないんです」(石沢さん)

石沢さんにお手本を見せていただきました。右手のわらを、親指と人差し指で挟み、左手も同じように挟んでいきます。そして右手を前方に伸ばすと同時に、左手のわらを右手のわらの上に載せ(写真①)、両方のわらに撚りをかけながら右手を手前に引きます(写真②)。左の手の中に右のわらを入れて押さえたら(写真③)、撚りを生かしながらわらを持ち替えて、ギュッと締めます(写真④)。これを繰り返しながら、縄を綯っていきます。

撚るときは、左手を動かさずにわらをしっかり押さえるのがポイント。「右手でわらをぐっと押しながら撚ると、スムーズです」(石沢さん)

「一度縄になってしまえば、しめたもんだけど、そうなるまでが大変だ」と、石沢さん。「どうしても左手が、上手くできません」と、私。「右手でわらを押さえたときに、わらが一緒になったらダメなんだよ。2つのわらの束が別々になっていないと。指の使い方が大切なんだ。そのためには、たくさん練習しないといけないね。だんだんよくなってきているから、あと10分も練習すれば大丈夫だ」(石沢さん)

力をゆるめず、両手でしっかり挟んでいく。撚りが強いと、丈夫な縄になる。

縄を綯う途中で、しめ縄の飾りの一つ「〆の子(しめのこ)」というわらの飾りを入れていきます。

(上)〆の子のわらの本数は、7本、5本、3本など様々。
(下)2本の束の間に、新たにわらを差し込んで、縄を綯う。

四苦八苦しながらも、なんとかしめ縄ができました。今度はわらを3本使ってしめ縄の上を結ぶ細い縄を綯います。指が下にいくようなイメージで撚ると、あっという間に完成です。たくさん練習したせいか、きれいに綯うことができました。

「もうちょっとやれば、もっと良くなるよ」と、石沢さんから温かい励ましの言葉をいただいた。

作った細い縄でしめ縄の上を結び、石沢さんに仕上げをしていただき完成です。

「縄を綯う」というシンプルな技術を学ぶ「しめ縄作り体験」は、普段はあまり使わない手と指の力を再発見する時間でもありました。上達することを目指し、何度もなじょもんに通う方もいらっしゃるそうです。新しい年の始めに飾るしめ縄。石沢さんに教えていただいたことを自宅でしっかり練習して、次回の体験教室では丈夫で美しいしめ縄を作りたいと思います。

輪の中を神様が通ると言われる輪飾りのしめ縄が完成!

なじょもんでは年間約80種類の体験教室を季節ごとに用意しています。 詳細はホームページから確認できます。
農と縄文の体験実習館「なじょもん」

<3月のおすすめ>
アンギン編み 初級編
開催日:2021年3月28日(日)
定員:6人(要予約)
対象:中学生以上
体験料:1,000円
津南町の指定無形文化財である「アンギン編み」で、コースターをつくります。編み方を学べる貴重な体験です。
※新型コロナウイルス感染拡大の状況により、日程や開催が変更になる場合や、入館制限を行うことがあります。電話またはホームページでご確認ください。

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